『最も賢い億万長者 上下巻 ――数学者シモンズはいかにしてマーケット』(2020)ダイヤモンド社

本書は2部構成になっています。第一部では、数学の世界から投資の世界へ転向したジム・シモンズがいかにして成功したのかを描いています。第二部では、トランプ大統領誕生の際に資金源になったロバート・マーサーが科学者なのになぜか荒唐無稽な説を信じていることを詳細に描きます。本来1冊なのを2分冊しているため下巻の後半が第2部となっています。

ファンド成り立ちの歴史を丹念な取材から掘り起こしていますが、一番気になるであろう投資に関わる数式は具体的には一切明かされていません。裁定取引であることは当たり前ですが、組み合わせの対象を選択するのに機械学習を早い段階から導入していたことは読み取れます。初期はエルウィン・バーレカンプがカーネル法を使っています。結局、他のファンドとの明確な違いは分からなかったようです。

歴史記録としては面白いです。上巻P.279の写真にマンデルブロに似た人が写っていたり、バーレカンプが映画『ビューティフル・マインド』のモデルジョン・ナッシュの授業に出ていたり、シャノンとすれ違ったりします。

『そして世界に不確定性がもたらされた―ハイゼンベルクの物理学革命』の数学版を目指しつつ、読みやすくするために大雑把にした印象です。

第二部では時間的にも近いからか、第一部と比べて情報の密さが濃くなります。トランプ大統領がどうやって勝利したのか疑問に思っていたのですが腑に落ちました。投資で蓄財する本と思って読んでいると、いつのまにかどうお金を使うかを考えさせられてしまう本です。