『幻覚剤は役に立つのか』(2020)亜紀書房


幻覚剤というと違法薬物で「ダメ絶対」に近づかない対象であり、ごく標準的な人にとっては特に知識は必要なく、ただ距離を置いておけば良いだけのものでしょう。なんとなく常習性があって一度使うとやめられない覚醒剤と同列で、LSDやマジックマッシュルーム、大麻やアヘン、コカインとそれほど区別はしていないのではないでしょうか。

25年位前に『別冊宝島』のクスリ特集号で、各クスリがアッパー系かダウナー系か、依存傾向が強いか弱いかなどの体験談を読んだ程度の知識しかありませんでした。
本書で取り上げる幻覚剤というのはLSDとマジックマッシュルームです。依存性はないそうです。

著者は幻覚剤の歴史を振り返り、自分で試すべく専門家にインタビューをしまくります。著者の価値観は物質的で現実的であり、特にスピリチュアルな言動には眉唾な印象を受けるタイプです。なので登場するスピリチュアルな点についてはかなり疑り深く、私にとってはとても読みやすかったです。

内容の流れとしては、1960年代に世論がLSDの悪い点を強調するようになり研究自体もストップしてしまった。科学的に考えると研究を続ける価値はあった。1990年代に幻覚剤の研究が再発見された。最近では脳の画像診断が可能となりクスリが作用しているときの脳の活性部位がわかるようになった。著者は自身の幻覚剤体験と研究者のインタビューや実験結果から、普段意識があるときに脳が活性している部分「デフォルトモードネットワーク」の活性を低くすると自我が消えて、まるで4歳児のようにすべてが新鮮に感じられるのではないかと考えるに至ります。

意識を「記憶し感じる力」自我を「判断する力」と区別すると、幻覚剤でデフォルトモードネットワークの活性が下がると「判断する力」が無くなるものの「記憶し感じる力」は残っています。あとで思い出せる点で幻覚中の体験を「本物」と認識するのだろうと著者は結論します。

個人的にはお酒もタバコもダメですし、幻覚剤などは大雑把に麻薬分類で近寄ることはないのですが、著者が本来MDMAを使用する状況で、代わりに呼吸法で同様の効果を体験する場面が興味深かったです。

「ホロトロピック 呼吸法」というそうですが、連続的に深い深呼吸をするそうです。グランブルーのような長時間の潜水をする際に、息を深くハアハアとしてから潜ると長く潜れると読んだことがあります。
呼吸法によりデフォルトモードネットワークによる判断力を抑えて体の限界まで潜っているということなのかも知れません。
自分で過呼吸を作り出すわけで、体調が悪くなるでしょう。真似するのは止めましょう。

最近のデフォルトモードネットワークの活動を下げる流行はマインドフルネスやらセルフ・コンパッションやらに移っています。上手くいくと心の持ちようが変わるそうですが、クスリで同様のことが行える自我というものは一体何なのでしょう。なかなか楽しい本でした。

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